No.114 「にわか」の時代 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.114 「にわか」の時代

2019/11/20

今年の流行語大賞にもふさわしい熱さである。初の日本開催となったラグビーW杯で、巷に急増した「にわかファン」。その開き直りぶりが笑える「NIWAKA DE GOMEN」と大きくデザインされたTシャツもネットを中心に人気を呼んだ。もはやラグビー愛の深さや長さという垣根を取っ払った盛り上がりだ。もしかしたら、長年のラグビーファンには複雑な思いもあるかもしれないが、とりあえず今はあたたかい目で見ていただきたい。


かく言う私も、開き直って「ザ・にわか」と呼びたい一人で、これまでの人生におけるラグビーとの接点といえば、あれこれ考えてみても、昔からカラオケでユーミンの名曲『ノーサイド』をよく歌っていること以外に浮かばない。これを接点と言っていいのかは疑問だが。


だが、さすがに今回のW杯、日本代表が勝利するごとに高まる世間のラグビー熱は、私なりに感じていた。試合前は、悲観的な予想がやや多かったように感じるアイルランド戦の当日。そろそろ結果が出た頃かと気を揉みつつ、ふとスマホの画面に目をやった。と、その瞬間「ニュース速報」として、ヘッドラインの一部が表示された。それは「RWC日本代表、元世界王者を」で切れている。なんと、助詞が「を」である。次には、いい言葉しか浮かばない。もし、これが「に」ならどうだったか。「惜敗」や「勝利」など、脳裏をかすめる選択肢は多い。偉大なる助詞「を」の役割のおかげで、この私も安心して記事を読むことができたのである。


ここで、まず結果をチェックするのでは「にわかファン」を名乗る資格もない、試合を見ながら応援しないのかとお叱りを受けそうだが、情けないことに、私はスポーツの試合をリアルタイムで見る勇気がない。あまり思い入れのない試合なら、落ち着いて観戦することもできるのだが、少なくとも結果が気になる場合には、まず録画しておき、ネットで結果を知ってから見るというパターンだ。大好きなフィギュアスケートでさえ、いや、好きゆえに…。


これまで日本語の授業では、「にわか」といえば、天気用語の「にわか雨」、そして上級レベルで「にわかに」を導入するくらいであったが、今後は「にわかファン」も何かの折に導入してみようかと思う。RWC開催中に、ある情報番組で「日本人のラグビー愛」を特集した際、街頭インタビューである女性が口にした言葉が印象に残った。「ラグビーの日本代表は、日本の未来そのもの」。その意味を問われた彼女はこう説明した。「いろんな国籍の人が、お互いを理解して、一つになれることを示したから」。それは、今はまだ「理想」である。が、「いろんな国籍の人が」という言葉に、ラグビーと自分の接点を見つけたようで嬉しくなった。



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