留学生を支援するということ ~日本語教師の役割とは~ | 日本語教師養成講座のアークアカデミー
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留学生を支援するということ ~日本語教師の役割とは~

2021/03/11

日本語教師というと「日本語を教える仕事」というイメージが強くありますが、実はそれだけではなく、留学生を支えるための様々な役割を担っています。日本語教師の役割とはなんでしょうか。ARC東京日本語学校教務の古川が教師として責任ある仕事やその重要性、魅力をご紹介します。


私は日本語教師養成講座を経て非常勤講師になり、日本語教師になりました。初めて授業に入ったのは留学生(当時は就学生)のクラスで、そこから現在専任講師になっても、ほとんど留学生対象に仕事をしています。日本語学校での日本語教師の主な仕事は、日本語を教えることと進路支援です。今回は、その2点について述べたいと思います。

 

「日本語」を教えることとだけではない、ファシリテーターとしての教師

「教える」というと文法などを教えることをイメージするかと思います。当然そのような授業もありますが、学習者同士の意見交換や、グループ活動(インタビューやプレゼンテーションなど)もあります。そのような活動のときは、「そんなふうに考えるんだ」「それは思いつかなかった」というような発見も多いです。学習者のそれぞれの国や地域、成育歴などにより、価値観は様々です。私は学習者がどんな意見を言っても、法やマナーに反した意見以外は決して否定はしないようにしています。その意見の根拠や、その反論も他者から聞きつつ、話を進めていきます。ここでは、教師の役割は「ファシリテーター」です。


留学生は最長2年間、日本語学校に在籍しますので、このような教室活動の中で、日本語だけでなく、自分自身の考えを深めることも可能です。しかし、学習者によってはクラスメイトと話し合う、という形式に慣れるまでに時間がかかります。私たちは時間をかけて徐々に慣れるように授業を考えなければなりません。そして、教師自身の意見を押し付けるのではなく、ファシリテーターとして、彼らをサポートする役割を負っています。

 

留学生一人ひとりに沿った進路支援

日本語学校に在籍する多くの留学生は、大学、大学院、専門学校への進学や、日本企業への就職を目指しています。私たちは、情報提供や出願書類のチェック、面接練習などにあたっています。


近年、首都圏の大学入学者枠が狭まり、日本人だけでなく留学生も苦戦しています。そのため、地方の学校に進学する学習者も数年前と比べると増えています。留学生対象の塾もあり、ダブルスクールをしている学習者も数多くいます。また、出願書類に英語の成績(TOEFLやTOEIC)を課しているところもあり、日本に留学したのに英語を学んでいる、という学習者もいます。留学生は本当に大変です。


数年前に担当した、忘れられない留学生がいます。どの大学を受験するか話していたときに、彼女が泣きだしたのです。「どこを受けるか自分で決めろと先生は言うけど、決められない。今まで私のことは親が決めてきたから。」と。彼女の興味がある分野を学べる大学をいっしょに探しながら話していたのですが、私が受験校を決めるわけにはいかないので、自分で決めよう、と話したときでした。泣きながら2時間ぐらい話しましたが、結論は持ちこしました。でも、数日後、彼女は自分で考えて志望校を決め、第一志望に合格したのでした。私は彼女の成長する姿を間近で見られて、本当に幸せ者です。大学生になってからしばらくして、学校に遊びに来てくれましたが、そのときの彼女はキラキラしていて、ああ、自分の好きなことを学んでいて充実しているんだな、と感じました。


進路支援は正直に言うと手間がかかります。しかし、成長の過程を学習者といっしょに味わえる瞬間もあります。だからこそ大変でもこうして続けられるのだと私は思っています。

 

留学生を教える日本語教師は、長期的な視野をもって日本語を教えたり進路支援をしたりしています。長期的、と言っても最長2年です。留学生の人生の時間の中でほんの一瞬です。その2年間の中で成長する留学生ばかりではありませんが、日本語学校を卒業したあと、私たちの教えた日本語や考えを深める授業、進路支援でのやりとりから得たものなどが、彼らの人生に少しでも役立ってくれればいいなと思っています。

 

ARC東京日本語学校教務部 古川由美子