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サービス・ラーニングの実践から考える ~地域住民のサポートとして『やさしい日本語』を使う重要性3~

2021/01/27

日本語学校と聞いて、どんなイメージを持ちますか。「教師が教室で日本語を教えている場面」を想像する方が多いのではないでしょうか。実は、地域の日本語学校では学生のための様々な活動を行っています。遠足や運動会などのイベントはもちろん、日本語を使って社会活動を行ってもらう、なんて授業もあります。今回ご紹介するのはそうした活動の1つです。王子国際語学院・教務主任の佐藤先生に、学校で実際に行ったある活動の全貌について伺いました。

 


 

今回はサービス・ラーニングと、市と日本語学校の協同事業についてです。前々回のコラムで、市の多文化共生事業に、私の勤めている日本語学校が携わったことがあると書きました。その経緯についてお話しします。

サービス・ラーニングの実践

サービス・ラーニングという言語習得の新たな理論が提唱され、学校で実践してみたいと非常勤講師からの提案で始めたのが2018年の暮れでした。サービス・ラーニングとは、地域内で浮いてしまいがちな在留外国人、特に日本語学校の留学生などが地域との接点を持つように、協同事業を計画します。そして、在留外国人と日本人との交流を図り、学んだ言葉を外で使用する機会を増やすことにより、日本語学習のモチベーション向上を促すというものです。背景には、日本の人口減少による地域単位での多文化共生の必要性が迫っているという事情もあると考えられます。

 

教育面で言うと、教室内での会話練習や発表練習に留まらずに実際に日本語を使ってやってみようという機会が増え、習得の効果が期待できます。ヴァーチャルからリアルにという意味では産学連携の縮小版のようなものと考え、上級クラスを対象にしてサービス・ラーニングの実践に着手しました。しかし、前例がある訳ではなかったので、開始してからというもの、担当講師は資料を見ながら首を傾げ、学生は参加したもののどこに向かうのかわからず、という状況がしばらく続きました。そうしているうちに縁あって、蕨市に転入する外国人に配布される転入資料の見直しをしてみようという機会に恵まれました。早速、現行の資料を市役所から預かり、学生とともに内容の検討を始めました。

 

学生からは「私の国の言葉があればいい」「通訳がいればいい」などという意見が出ました。もちろんあればいいことなのですが、財政的に実現可能なのだろうかと悩みました。20歳前後の学生に向けて「採算性を考えて」なんて言うのも酷です。意見を出してくれるだけありがたいし、私自身も行政を動かす立場にはないので、貴重な意見はまとめて一旦、市役所の窓口に提出しました。すると、市役所の職員の方が実現できそうな事案をいくつかピックアップしてくれ、発表会を行いましょうという流れになり、その発表会には市役所の内外から、該当する行政サービスの担当者を参加させるとのことでした。これは話が大きくなったなと思いました。

 

サービス・ラーニングの実践から得たもの

 

発表したい内容ごとに学生をグループに分けて、発表のレッスン時間を使って、市役所での発表会に向けて準備を始めました。提示する資料の準備をして、発表中にスピーチする内容の原稿を書き出し、修正を加えて、教室内でリハーサルもおこないました。おのずと通常レッスンの発表のときよりも力が入り、真剣さが窺えます。ふと考えてみたら、自分が20歳そこそこのとき、外国の市役所のホールで、市の職員を相手に外国語でプレゼンをするなんて考えてもみなかったことです。これこそサービス・ラーニングの醍醐味ですね。

 

発表会の当日は緊張の中でしたが、各グループ無事に発表を終えて、学生の提案は温かく迎え入れられることになりました。具体的に採用された提案は、転入資料内の医療機関案内の診療科目の多言語化と、ゴミ出しルール表のベトナム語訳の追加です。さて、それからは培ってきた日本語能力の使いどころです。来日した頃は読めなかった診療科目やゴミ出し表の日本語も今ならすらすらとわかります。難なく作業を終えて、訳文を市役所に納品しました。現在、学生の成果品が正式に市の転入資料として配布されています。

 

在留外国人との共生

ゴミ問題と聞いてピンとくる人もいるかと思いますが、在留外国人が近隣と問題になるケースとしてゴミ問題の例は少なくありません。国の文化事情が影響しているのでしょう。しかし、これは逆手にとればゴミ出しのルールさえしっかり守れば、良好な関係を築くいいチャンスと言えます。こういった背景を勘案するとベトナム語のゴミ分別表の翻訳の作成は、市と日本語学校の協同事業のとっかかりとして好モデルを示せたのではないかと思います。これを契機に地域との協同事業の範囲が広がり始めました。2019年には市主催の「災害について考える」というテーマの多文化共生イベントで、ベトナム人学生が台風19号の被災体験をスピーチして市政レポートに掲載されました。同年、JR蕨駅とも協同で多文化共生事業が始まりました。

 

少子化と言われて久しく、最近は人口減少というちょっとぞっとする言葉が使われ始めました。在留する外国人の力がなくては社会の歯車が回らないという状況が各地で起きています。そして同時に地域と外国人との調和が求められています。上述のサービス・ラーニングに参加した学生がこう言いました。「今回の活動を通して、いつまでもゲストとしてではなく、ホストとして日本で生活する自覚ができました」と。改めて地域活動を通して得るものは大きいと実感しました。お互いが積極性をもって、実行に結びつけることが不可欠です。次は町会との協同事業も始まりました。2020年は新型感染症の影響で実現しませんでしたが、留学生が盆踊りの櫓(やぐら)の組み立てに参加しているような光景を夢見ながら、一歩ずつ外国人の地域交流活動を推進していきたいです。