日本語学校の事務局員になるということ | 日本語教師養成講座のアークアカデミー
    TOP » コラム » 日本語学校の事務局員になるということ

日本語学校の事務局員になるということ

2021/06/14

養成講座の受講を検討している方から、「日本語教師になるためには、英語が話せないとダメですか」という質問をよくいただきます。その時はいつも、「日本語教師は、多くの場合日本語を日本語で教えますから、外国語の能力は必須ではありませんよ」とお答えしています。しかし、日本語学校の事務局員となると、話は違います。あまり知られていないかもしれませんが、日本語学校の事務局員は、何らかの外国語に堪能であることが多いです。まだ日本語が流ちょうに話せない留学生たちの母国との事務手続きを代わりに行ったり、彼らの相談に乗ったりするときには、留学生の母語を使用するからです。アークアカデミー新宿校の事務局員である熊沢は、得意の中国語で長年留学生のケアにあたってきたベテラン局員です。彼がどうやって自分の得意を活かしているのか、その仕事についてみてみましょう。もしかしたらあなたの外国語能力も、留学生の心をケアし、彼らを助けるのに役立つかもしれません。

 

貿易商社から日本語学校へのキャリアチェンジ

私は大学で学んだ中国語を活かし、貿易商社で7年勤務した後、学生管理としてアークアカデミーに入社しました。今は学生管理部門の他、中国人学生の募集業務、アルバイト探しや就職活動のサポート業務などを担当しています。アークアカデミーに勤めてもう18年になりますが、ずっと留学生と直接関わる業務に携わってきました。

大切なのは中国語を学んで「何がしたいのか」

私が中国語を学んだ当時、まだ日本には中国からの情報も少なく、両国のお互いの好感度が低いことを強調する記事が、毎週のように週刊誌に掲載されていました。

 

しかし、ネガティブな回答の方の理由は、「なんとなく」というものばかり。近いのによくわからない国の人たちの本当の姿を、先入観を持たずに知りたいというのが、私の中国語学習のきっかけでした。

 

卒業後に就職した貿易商社で接する中国人は、残念ながらあくまで取引相手であり、お互いに腹の探り合いをしているような関係でした。これは当然のことであり、それなりのやり甲斐を感じる仕事でもあったのですが、当初の目標であった、中国人と腹を割っての付き合いがなかなかできないことに疑問も感じていました。その後、転職を決意し、改めて自分を見つめなおしていた際、偶然、アークアカデミーの求人を目にし、応募しました。

「中国語ができる」だけでは足りない、熱意の求められる仕事

実際に働き始めてみると、想像以上に、本気で向き合う必要のある業務でした。長年留学生に接してみて、私がつくづく感じていることは、「こちらが本気で接しないと、先方は決して心を開かない」ということです。もちろん、こちらの真意や善意がなかなか伝わらないこともあるのですが、言葉や文化のギャップで伝わらない部分を、留学生は表情や熱意から補って読み取っていますので、血の通わない言葉は全く相手の心に刺さらないのです。私の父がお世話になった介護施設職員の方々が、利用者の方々に接する様子を見て、非常に似ているとも感じました。

時代の変化に合わせた柔軟性や、共感力も求められる

私が入社した2003年当時、日本語学校業界は、まだ現在ほど成熟はしておらず、教務と事務の業務も、まだ明確な境目はなく、募集や学生管理などの業務は、入管政策の転換や時代に合わせ、手探りで形を変え、進化をしてきました。

 

留学生が求めるサポートも、日々多様化しています。私の場合、中国語通訳を担当することもありますが、単なる単語の変換であれば、いまはスマホを使った方が確実ですし、専門的な用語であれば、私より留学生の方が詳しいことさえあります。どう説明すれば伝わるのかを考えるには、語学力よりも、先方の国の事情や、日本についての事情について、よく理解している必要がありますし、相手の心情を想像するエンパシー能力も求められます。日本語学校は、学生にとっては通過点かもしれませんが、学生の卒業後の将来を見据えた上での指導は、キャリアカウンセリングにも通じます。何年精進を続けても、まだ極めることのできない、「道」のような仕事です。

仕事をして得られるもの


写真中央が熊沢サンタ

 

現在はSNSも発達して、10年以上前に卒業した留学生とも、交流を続けていけるようになりました。この数年、東日本大震災の頃に入学し、卒業していった学生たちが、自分の親戚や知人に、アークアカデミーを紹介してくれるようになりました。あの留学生の激減した時期に、入学してくれた学生たちに、正面から向き合ってきた結果が、こうしてつながっていくことを、非常に嬉しく思います。

 

現在の在校生も、コロナ禍の中、日本での留学継続を選んでくれた学生です。彼らが数年後、また親戚や知人に、アークアカデミーを紹介したいと感じてくれるよう、今日も精進してきたいと思います。

 

アークアカデミー新宿校 事務局 熊沢健志