No.159 「コの字」の机 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.159 「コの字」の机

2022/06/07

暑い、とても暑い。これを書いているのは、東京が今年初の「真夏日」で31℃を超え、7月下旬並みの暑さとなった日だ。「真夏日」といえば、先日、授業で「~というのは~のことです(~ということです)」という表現を練習する日にあたった。教科書によくある「禁煙とは」「首都とは」「寿司とは」などの文を例示しながら、ついでに「イケメンとは」も導入。その日は時間的にけっこう余裕があったので、来る季節に備えて、気象用語についてもやってみようと思い立った。


ざっと「夏日」「真夏日」「猛暑日」の気温を説明し、「夏日というのは」の後の文を考えさせてみる。と、勘のいい学生は「最高気温が25℃以上の日のことです」という文を作っている。なかなかいい感触だ。翌週、その日も暑かったので「暑いですね。今日は25℃以上です。こういう日を何と言いますか」と聞いてみる。前回、しっかりした文を作った学生を見つつ、答えてくれないかとしばし待つ。が、残念ながら正解は出ず。学生たちの頭上に「?」が飛んでいた。これも暑さのせいか。


さて、4月、5月と来日した留学生たち。私が担当している2クラスは、ようやく全員揃って、教室での対面授業を受けている。教室自体はさほど広くないのだが、机の配置は「コの字」である。「お互いの顔が見えたほうが安心でいい」ということで、学生たち自身「コの字」がお気に入りらしい。ちなみに、座る席は、だいたい決まっているようだ。「いろいろ不安あり」という学生の横には世話役の学生がいて、何かとフォローしている。教卓から見ていても、実に微笑ましい光景だ。


特に、オンライン授業で1年間学び、ようやく来日を果たせたクラスの場合、教室で一緒に過ごせるのは1年間だけ。それだけに、結束は固い。幸いみんな仲がよく、ちょっとしたことでも、離れた席からツッコミが入る。正直、やや騒がしくなることもある…のだが、教室で過ごす貴重な時間。今は、あたたかい目で見ている。来日早々、6月には日本留学試験、7月には日本語能力試験が行われ、本格的な進路決定となる。とにかく、日本での生活を楽しんでほしいものだと、切に願う。


ところで先日、道に迷った。学生ではなく私が、である。知り合いと食事をするため、久しぶりに渋谷へ。しかも、住宅街にある、隠れ家的な店での待ち合わせだ。スマホで地図を見ながら歩くも、完全な迷子状態に。仕方なく、近くにいた男女に「すみません」と声をかけ事情を話した。すると、男性のほうが、すぐに自分のスマホで検索してくれた上に、「わかりにくそうだから、一緒に行ったほうがよさそうですね」と言い、わざわざ店の前まで送ってくれたのだ。しかも、二人とも笑顔で「楽しんでくださいね」と言ってくださる。ありがたい。人のやさしさに触れたとき、何とも言えぬ気持ちになるものだ。どうか留学生たちも、たくさんの、あたたかい出会いに恵まれますように。