No.172 笑顔の再会 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.172 笑顔の再会

2023/06/06

5月のある日、A君が学校にやってきた。彼は、今年3月の卒業生。私が担当している準備教育課程で2年間勉強し、4月から都内の大学に通っている。このクラスは、コロナ禍ではじめの丸1年はオンラインでの授業を余儀なくされ、去年の4月にようやく来日、その後の1年間のみ対面授業で学んだクラスだ。対面わずか1年とはいえ、やはり2年間担当したという意味で思い入れがある。

そのクラスのA君が、ビザ更新のための書類をもらいに来るという。その日、私は午前クラスだったのだが、タイミングよく、彼が来校するのはお昼過ぎになる予定とのこと。ならばぜひと、共に担当していた教師たちといっしょに「出迎える」ことにした。在校中のA君は授業中の質問に対する反応が薄く、「機嫌が悪いのか?」とさえ思うこともあった。彼の「思い出」といえば、何といっても朝の挨拶である。出欠確認のとき、一人ひとりの名前を呼んだ後、「おはようございます」と声をかけるようにしているのだが、その返事は、彼だけがなぜか「先生、おはよう」だったのだ。

どこか落ち着きのある低めの「おはよう」は、まるで大企業の社長のそれだ。きっと気づいてくれるだろうと淡い期待を抱きつつ、途中から「~ございます」と強めに言ったりしてみたが、社長のまま1年が過ぎてしまった。そして、対面授業が始まってからも「おはよう」はそのまま…。ゆえに、A君といえば、「『おはよう』のA君」なのである。どんな大学生になっているか興味津々だ。

さて、約2か月ぶりに会った彼は、驚くほど爽やかな青年になっていた。私たち教師の質問にも、スピーディーかつ的確に答えてくれる。しかも、笑顔だ。一番気になっていた「友だちができたか」という質問にも、同国の友人も、日本人の友人もできたと言う。「じゃあ、もう大丈夫だね」と私が言えば、共に出迎えた教師も「会えて、私も元気になったよ!」と声がはずんでいる。その後は、マスクを外して記念写真。「撮影しましょう」と提案したのがA君から、というのも驚きだった。

A君の他にも、同じ用件で来校した学生がいた。そのとき私は授業中だったのだが、教室の外から声をかけてくれたので、少し話すことができた。卒業して間もないはずなのに、妙に懐かしい。彼らもとても元気そうで、大学生活を楽しんでいるのがわかる。教師としては嬉しい再会である。

5月にしては異常なほどの暑さがニュースになり、気象庁の長期予報によれば、この夏も暑くなりそうだ。教室では早くも、毎年恒例のエアコンを巡る「暑いVS寒いバトル」が始まっている。私自身は暑がりだが、勝手に室温を下げるわけにもいかない。実は、A君たちのクラス最後の授業後、記念に素敵なグリーンの扇子をもらった。学生曰く「先生はよく扇子を使っていたから」。私が暑がりなのがバレていた。もったいなくて、大切に箱に入れてある。が、そろそろ出番のようだ。