No.150 一歩一歩
2021/11/09
新しいスニーカーを買った。去年、たまたま通りかかった店で見つけたのがあまりに履きやすく、色違いでもう一足欲しいと思っていたのだ。思えば、しばらく「服が欲しい」とか「おしゃれをしたい」という欲求が薄れていた。去年のはじめ、私にしては奮発して買った冬のコートも、外出する機会の減少で、活躍のチャンスもほとんどなく今に至っている。そんな中での新しいスニーカー購入は「そろそろ暮らしを楽しみたいな」という気分の表れではないかと、自分でも嬉しくなった。
先日も、天気予報で好天が続くと伝えていたので、芸術の秋を堪能すべく、美術館に行ってみようと思い立った。そのとき、ふと頭に浮かんだのは、今は亡き著名な絵本作家の美術館。彼女が暮らした場所に、その瀟洒な美術館はある。以前はよく訪れたのだが、今回は約10年ぶりになる。
最新情報を検索しているうちに「これなら歩いて行けるのではないか」と思えてきた。以前は徒歩で行く発想などなく、当然ながら交通機関を利用して行ったのだが、あえて「徒歩」での所要時間を調べてみると「42分」と出た。もちろん、足元の相棒はお気に入りのスニーカーである。歩くのには自信があるが、唯一の心配は方向音痴。「スマホのマップがあるじゃない!」と思われるかもしれないが、道に迷うときには、そんなことは関係ない。それが、方向音痴というものなのである。
案の定、美術館の手前で「迷路」に入り込み、近くにいた女性に道を尋ね、10分弱遅れて到着。予定では作品をゆっくり観た後で、館内のカフェで一休みして帰ろうかと思っていた。が、残念ながら、現在コーヒーなど飲み物の提供は休止中。ショップでちょっと買い物をして帰途についた。ほんの2時間半ほどの「旅」ではあったが、秋風の中を歩きながら、たしかな季節の流れを感じた。
さて、学校も対面授業で新学期が始まって1か月ほど経ち、先日は担当しているクラスの授業に、大学生が参加してくれた。実習に来ていた大学4年生の2人で、口頭表現で面接の応答練習をしていたので、後半は彼らに面接官をやってもらうことにした。面接の順番などは、くじ引きで決定。留学生たちは名前を呼ばれると、緊張した面持ちで「面接官」の前に座り、神妙に質問に答えている。
最後の10分ほどは、せっかくなので留学生から現役大学生への質問タイムとした。すると、ある学生が遠慮がちに手をあげた。「大学で友だちを作るにはどうしたらいいですか」。答えは「講義のとき、隣に座った人に話しかけてみるといいですよ。僕もそれで友だちができて、それをきっかけに友だちが増えましたから」。心のこもった助言に、学生たちは笑顔を浮かべてうなずいていた。
徐々に学生たちの「サクラサク」が届き、留学生の入国緩和に関するニュースも聞こえてきた。いろいろあった2021年も、あと2か月を切った。時間はしっかり、一歩ずつ前に進んでいる。