No.169 サヨナラの季節 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.169 サヨナラの季節

2023/03/06

2月末になり、早くも期末テストが始まった。そして、3月に入って、あっという間に卒業式である。今期、私が担当している4クラスの中で、卒業を控えているのは1クラスのみ。準備教育課程の「2年生」だ。2年生といっても、コロナ禍による入国規制のために、なかなか来日が叶わず…丸1年オンラインでの授業を余儀なくされ、去年の春にようやく来日を果たした学生たちだ。

当時は1人、また1人と来日が決まり、ついに全員が教室に揃ったとき、これまで経験したことのない喜びを感じたのを覚えている。いずれにしても、大変なこの時代に、人生を大きく左右するであろう留学先として、日本を選んでくれたことに心から感謝した。そんな彼らが卒業を迎える。

本来なら、来日後2年かけて、日本語を学びながら徐々に日本の生活に慣れ、受験に関する情報を集め、受験校を決め、それぞれしっかり準備をして受験、そして進路決定…というコース。それが、実質1年でさまざまなことを調えなければならない状況は、さぞ大変なことが多かったはずだ。しかも、世の中はコロナ禍がまだ落ち着いていない中、本当によく頑張ったと褒めてあげたい。

このクラスで私は「公民」の授業を担当しているのだが、期末課題として、教科書の内容を学生たちに分担して発表してもらうことになった。パワーポイントやプリントを用意してもよし、板書でもよしと、見せ方はあくまで学生たちに任せた。先日、全員の発表が終わったのだが、それぞれ「らしさ」がにじみ出ていた。中には「なかなかやるな」と、いい意味で裏切られたケースもあり、学生たちの成長ぶりを眩しく感じたと同時に、「ああ、もう卒業か」と妙にしみじみしてしまった。日本語教師として、もう何度となく「3月」を迎えているが、やはり寂しさは拭えないものである。

ところで、ニュースでも大きく取り上げられていたのでご存じの方も多いと思うが、先月21日、上野動物園のアイドルパンダ・シャンシャンが中国に返還された。コロナ禍で、これまで何度も延期されていたのだが、昨年末に「2月21日返還」と発表され、「ついに、その日が来たか!」とファンの間にショックが広がった。と、まるで他人事のように書いているが、私もその一人で、「ならば会いに行かねば」と力が入った。週1回ペースではあったが、あるときは3時間近く並び、観覧が抽選制になってからも幸運にも何度か当選することができ、カワイイ姿を目に焼き付けることができた。

そして、観覧最終日の19日。日曜日ということもあり、「ぜったい無理だな」と思いつつ、ダメもとで応募してみると、なんとまさかの当選。シャンシャンに「元気でね」と伝えたあと、上野公園を歩きながら、すぐそこまで来ている桜の季節に思いを巡らした。卒業クラスの学生たちにとって初めての日本の桜。4月からの新しい生活を前に、彼らの目にはどんなふうに映るのだろうか。