日本語教師の日常エッセイ「チリもつもれば」No.40 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No.40 もったいない

2016/11/09

いろんな留学生に接していると、時には「もったいない!」と思わせる学生を見かける。お金や食べ物の話ではなく、そのキャラクターの話である。せっかく勤勉で成績が悪くはなくても、なかなか周囲と協調できないタイプだ。冷たい性格というわけではないのだろうが、肝心なところでニコッと笑えない。それだけで人間は損をすることさえあるのだ。


言うまでもなく、進学でも就職でも「能力」は大切だ。大部分はそれ重視で選ばれる。だが、実際にそこに採用された後こそ肝心だ。より深く仲間として受け入れてもらえるかどうかは、その性格や言動によって大きく左右されるのではないだろうか。特に日本は「協調性」を尊ぶ国である。どんなに能力があっても、宝の持ち腐れになる可能性もある。

 

先日、ある人からこんな話を聞いた。その会社でも外国人の社員を何人も採用しているのだが、待遇表現が正しく使えない人が少なくないという。日本語が上達するに従って「くだけた表現」を学ぶようになる。すると、「くだけた話し方ができること=日本語が堪能」であると勘違いするケースもあるだろう。日常的にも違和感を拭えないが、社内ならまだいい。外部の人とも同じ調子なので…と困った表情だった。日本語が上手な分、敬語がきちんと使えない外国人への目は厳しくなるのだが。

 

聞けば、彼らは一流大学の大学院を修了しているらしい。技術系の職種ということもあり、採用の際には、学歴や専門知識などが重視されるのだろう。「もし、就職前、彼らの近くに待遇表現の重要性を教えてあげる人がいたら、就職後の周囲からの評価も変わっていたはず」と、他人事ながら残念に思うのである。日本語教師ゆえ。そして、改めて、日本語学校におけるビジネス日本語教育の重要性を痛感した次第である。

 

時々、卒業生がアークアカデミーを訪ねてくることがある。中にはビザや証明書といった事務手続きでの来校もあるが、「懐かしくて」とわざわざ足を運ぶ卒業生もいる。9月に行われた文化祭でも懐かしい顔が見られたが、彼らに共通しているのは自信に満ちた笑顔である。担任だった先生方に近況報告している姿を見ているだけで「ああ、毎日充実しているんだろうな」と想像できる。きちんと敬語で在校時の感謝も述べている。「もったいない」とは遠い場所にいる彼らに、心からホッとする。

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