No. 91 いざ避難訓練 | 日本語教師養成講座のアークアカデミー

No. 91 いざ避難訓練

2018/12/03

10月のある月曜日、火災の避難訓練が行われた。学校では年2回、避難訓練が行われている。1回は地震発生、もう1回は火災発生を想定したものであり、いずれも行われるのは金曜日がほとんど。基本的に担任が入る曜日であり、月曜日は珍しい。10年以上この学校で教えているが、私がこれまで避難訓練の日に当たったのは、渋谷に校舎があったときの1回だけである。


当日は、事前に「今日は避難訓練で、避難先で解散」という告知をしていたため、学生にはほとんど緊張感は感じられなかったが、私のほうは内心ドキドキしていた。もし実際に避難するような事態が起きたら、果たして冷静に学生を誘導できるだろうか、などと考えてしまう。そう考えると、避難訓練というのは、学生というより教師のための訓練なのだとしみじみ思う。


自分の国で災害に遭うのも恐ろしいが、外国で災害に遭うのは生きた心地がしないものだ。実は、私もパニックになった経験がある。ウラジオストクで暮らしていたときのこと。市内のあるビルで火災が起きた。銀行や会社などが入った建物の一室から出た火は、防災対策がずさんだったこともあり、瞬く間に広がった。ランチタイムが終わり、さあ午後の仕事というタイミングでの火事。現地のニュースでは猛火から逃れようと6、7階という高さから飛び降りる人の姿が映され、10名ほどの犠牲者が出たことを伝えていた。実際の犠牲者はもっと多かったという噂もあり、身震いがした。


それからわずか1週間ほどした頃だろうか。週末の朝、妙な臭いで目が覚めた。驚いて飛び起き、見ると、玄関のドアの隙間からスーッと煙が入ってくるではないか。まさに、あのニュース映像が甦る。もうパニックである。ちなみに、私の部屋はアパートの7階で、非常階段もない。以前何かで見たように、濡らしたタオルで口を押えつつ、貴重品をバッグに詰める。しばらく様子を見ていたが、煙が落ち着いたところで恐る恐るドアを開け、廊下の様子を窺った。すると、既に消防隊が到着しており、火はほぼ消えていたようで、廊下に出ていた住民たちも安心した表情で話している。ろくにロシア語が話せない私は、もし一人で取り残されていたら…と思うだけで、ゾッとした。


実は、その日の夕方、駐在員の家に集まって「おでんの会」が開かれることになっていた。煙を見た瞬間、真っ先に頭に浮かんだのは「もうおでんが食べられない…」。そんなことを、今回の避難訓練で思い出した。