No.132 故郷は遠いけれど
2020/10/07
留学クラスの後期の授業が始まるまで、オフモードでのんびり過ごしているうちに、うっかりカレンダーをめくり忘れたまま10月に入っていた。もう10月、まだ10月…本来なら、お花見など四季折々のイベントに加え、夏にはオリンピックに熱狂し、興奮も冷めやらぬ状態で迎えていたであろう秋は、いつもよりずっと寂しげに見えてしまう。書店や雑貨店には、2021年の手帳がずらりと並んでいる。例年なら、その光景にワクワクし、年末年始の予定などを頭に浮かべつつ「さて、来年はどの手帳と一緒に1年を過ごそうか」と迷うのも、この季節の楽しみになっていた。が、今年はまだそんな気持ちになれないまま、日々を過ごしてしまいそうだ。
そんな柄にもなく沈んだ気持ちで、電車に乗ったある日のこと。斜め前の席に座る若い女の子の二人組が目に留まった。二人とも大きめのスーツケースを前に置き、会話もなくスマホに夢中になっている。その雰囲気から「再入国した中国の留学生かな」と思った。残念ながら、彼女たちが母語で会話しているところは聞けず、確認できたわけではない。でも、なんとなく「留学生だ」と思った。そして、自分の気持ちがちょっぴり上向いたのを感じた。
思えば今年は、新型コロナの影響が広がってから、GWも夏休みも、学生にとって大切な記念となる春の卒業旅行でさえも、叶わなかった。海外旅行はおろか、国内旅行もままならない「特別な年」。そんな中で、私が久しぶりに電車で見たスーツケース。ふと、9年半前の東日本大震災後のことを思い出した。あの日以降、街でも電車の中でも外国人を見かける機会が減り、暗い気持ちになっていたとき、久しぶりに地下鉄で見かけた南アジア出身らしき男性。その姿を見たときの、何だかとても救われて「きっと大丈夫!」と感じた瞬間が甦ったのだ。
2020年。もちろん、オリンピックも楽しみにはしていたが、個人的には2月末にウラジオストク-成田直行便が就航になるということで、久しぶりに訪れてみようかな、他にも台湾や韓国もまた行きたいな…などと呑気に考えていた。結局、当然ながらそれは叶わず、新幹線を含めてわずか2時間半ほどの故郷への帰省さえも果たせていない。「Go To キャンペーン」に東京が加わったとはいえ、普通の旅行以上に、かえって帰省のハードルは上がっているように思う。実際、地元の友人曰く「感染に関しては、今は東京より田舎のほうがピリピリしてると思う」とのこと。高齢者の感染リスクを考えると、まだちょっと故郷は遠いなと感じてしまう。
だが、少し光明が差してきた今。まずは、帰省を果たす日を楽しみに。そして、今年叶わなかったことが実現できるように、2021年の手帳を手に入れようと思い始めている。