日本語教師はおもしろい!私がすすめる3つの理由
2020/12/02
皆さんの周りには日本語教師の知り合いがいますか。「います!」と答えられる方は少ないのではないかと思います。日本語教師とはどんなお仕事なのか、どんなやりがいがあるのか、謎に包まれた部分も多いですよね。そこで、日本語教師として幅広く活躍されている松本弘美先生に日本語教師、そして日本語教育業界についての魅力を語っていただきました。
自分のことを人に「日本語教師です」と紹介すると、「国語の先生?」「英語がペラペラなんですか?」という反応が返ってきます。私が日本語教師になって20年近くになりますが、この反応が最近は「ああ、外国人に教える?!」と変わってきました。とはいえ、日本語教師はまだまだ認知度が低い仕事と言えるかもしれません。でも私はこの仕事がとても好きですし、やりがいを感じています。ここでは私が感じる日本語教師の魅力を皆さんにお伝えしたいと思います。
刺激的でクリエイティブ
日本語を学ぶ学習者は世界中にいますが、学習者の個性を「○△人」というように国籍では括ることはできません。国や地域で特徴はあっても、生まれた環境、育った地域、受けてきた教育、文化背景は学習者それぞれが違い、誰一人として同じ人はいません。同じ内容を教えたとしても、その反応は100人いれば100通りあります。例えば、「妹」という漢字を教えると、ある学習者は「妹と弟は同じですか」と言い、ある学習者は「先生の妹は何歳ですか」と言い、ある学習者は「ドラえもんの妹はドラミちゃんです」と言う…。学習者の想定外の反応は刺激的でとても楽しいです。
クラスも同じで、その時のクラスメンバーの出身、年齢、性格などによって雰囲気が変わります。明るくにぎやかなクラスもあれば、黙々と静かに学ぶクラスもあります。日本語教師は授業準備として授業の計画を立てたり、内容を考えたりするのですが、その時々のクラスに合わせて内容を考えます。例えば、アニメ好きが多いクラスだったらアニメに関連した例文を準備したり、お子さんがいる学習者が多ければ子育ての文脈を中心に授業内容を考えたりといった具合です。クラスの様子やクラスメンバーの顔を思い浮かべならが、「名探偵コナンを例文に使ったほうがわかりやすいかな」とか「子どもが遊んでいる場面で導入したほうがいいかな」と、クラスによって授業内容を考え直すのです。それはクリエイティブで楽しい時間です。
日本語教師という仕事は、学習者からの想定外の反応を楽しむことができ、クラスの様子やクラスメンバーに合わせて授業内容を考える、刺激的でクリエイティブな仕事です。
日本語ということばでつながる
私が日本語教師になったのは、海外旅行で現地の方々とコミュニケーションをする時に感じた気持ちがきっかけです。英語が得意ではなかったので、ジェスチャーやボディーランゲージで会話をしなければならなかったのですが、私が出会った方々は私が日本人だとわかると、知っている日本語であいさつをしてくれたり、片言の日本語で話しかけてくれたりしました。その時のうれしいという気持ち、そして心が通じ合った時に感じる喜びから日本語教師という仕事に興味を持ちました。
最近になって気がついたのですが、私は通じ合った時に流れる空気というか、理解し合えたときの感覚というか、それが好きなんですね。日本語教師になって、自分と学習者はもちろん、教室で文化背景が異なる学習者と学習者が日本語を使って、自分の気持ちを表現しようとしたり、相手を理解しようとしたりする。そうやって教師と学習者、学習者と学習者が国籍も年齢も職業も超えて理解し合い、つながっていく。ちょっと大袈裟かもしれませんが、世界平和っていうのはこういうことを言うんじゃないかと思うんです。つまり、ことばを使って相互理解を重ねていくことで世界平和が作られる…。
日本語ということばで学習者と学習者が理解し合い、つながっていく場に自分もいられることが日本語教師の魅力です。
より良い社会づくりに重要な役割を担う
人手不足を背景に、日本は外国人労働者の受け入れに舵を切りました。在留資格によっては家族を伴う来日も可能になり、「隣人は外国人」が当たり前になりつつあります。
私が日本語教師になった頃は日本語教育といえば「留学生の日本語」「ビジネス日本語」ぐらいしかなく、分野に広がりはありませんでした。しかし、今では「生活のための日本語」「児童生徒のための日本語」「就職のための日本語」「職場での日本語」「専門分野の日本語」など、その分野はどんどん細分化されてきています。様々な分野で日本語教師が求められています。
日本語教師は日本語を教えるのが仕事ですが、近年はそれ以外にも様々な形で日本語教師に期待が寄せられています。例えば、企業内の外国人社員研修、地域における外国にルーツを持つ方とのネットワーク作り等、日本語教師だからこそできる仕事があるんだと思います。私は以前、日本語学校で専任教員として働いていましたが、今は認定こども園を運営する法人で働いています。その内容は、保育士人材育成のためのカリキュラム作り、外国籍の方が入職する際の在留資格取得のお手伝い、外国にルーツ持つ子育て中の方向けのオンラインカフェの企画・運営サポートなどです。日本語学校で働いていた時とは違った形の仕事ですが、日本語教師の私だからこそできる仕事だと思っています。
多文化子育てオンラインカフェの様子と参加する松本先生
日本語教師の国家資格化の動きがありますが、これは日本語教師が様々な分野で、様々な形で必要とされている現れでしょう。日本語ということばを使い、私たちと外国にルーツを持つ方々が共により良い社会をつくっていく、そのための重要な役割を日本語教師は担っているんだと思います。
日本語教師の魅力はこれ以外にもたくさんあります。もちろん、大変なこともありますが、楽しくやりがいのある仕事であることは間違いありません。皆さんも日本語教師への扉を開き、是非この仕事の魅力を味わってみてください。
東京ひろがり日本語学校
教務主任 松本弘美