日本語教育能力検定試験「マンボウ」問題
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言語と社会の関係
登録日
2005年05月26日
問題
次の文章を読んで、問に答えよ。
言語は空間、時間(歴史)、年齢・世代、職業・身分・階層、性差、コミュニケーションの機能、習得度などの切り口によっていろいろと区別することができる。日本語を例にとれば、空間という切り口では、さまざまな方言が、年齢・世代という切り口では、A若者言葉と老人の言葉が、性差で切れば男言葉と女言葉がある、といったように実に多様な姿がある。
しかし、一般の日本語母語話者のふだんの言語生活では、われわれはこの言語の多様性にあまり注意を払わないのではなかろうか。B標準語や男言葉の優位を暗黙のうちに認め、それ以外の言語のバラエティはあまり考慮せずに、あるいは認めずにきたのではないだろうか。このような態度は言語バラエティに対する許容度が低いと言わざるを得ない。
母語標準信仰に即して言えば、母語や標準語を一種絶対的なものとして崇拝し、逆に母語でないもの、標準から逸脱したものを軽視し、差別するという現象は日本社会ではいたるところに存在する。かつての( ① )はその典型的な例であり、標準語とは異なる言語バラエティの軽視や差別の現れに他ならない。
このような( ② )が「いよいよ強化されつつある」社会に生き、なおかつ言語生活に「正しいもの」を欲する傾向の強いわれわれが、外国人のいわゆる「片言」の日本語を聞いたら、それをどう感じ、それによって彼らの人となりをどう判断するのか。母語標準信仰の強いこの社会では、C昨今の移住労働者のように外から来た人たちの言語も偏見や排除の対象となりはしないか。かつて( ① )などを経験し、同じ日本人の言葉の違いにさえ寛大ではなかったものが、外国人の場合に限って急に大らかになるとは言い難いのである。
問1. 文中の下線部A「若者言葉」について、井上史雄が提唱している用語はどれか。
- 新方言
- 社会方言
- 個人特有方言
- ネオダイアレクト
問2. 文中の下線部B「標準語」という語と「共通語」という語を使い分ける立場から述べたものとして適当なものを選べ。
- 標準語は規範的であるが、共通語は規範的ではない。
- 標準語は高位言語であるが、共通語は低位言語である。
- 標準語は法律で定められているが、共通語は定められていない。
- 標準語はフォーマルであるが、共通語はインフォーマルである。
問3. 文中の①に入る適当なものを選べ。
- 識字運動
- 方言撲滅運動
- 言文一致運動
- 国民精神総動員運動
問4. 文中の②に入る適当なものを選べ。
- 日本は柔軟という見方
- 日本は一つという見方
- 日本は開放的という見方
- 日本は多種多様という見方
問5. 文中の下線部Cについて、旧来の外国人と区別して何というか。
- ニューカマー
- ニューウェーブ
- ニューフェース
- ニューファミリー
解答
問1. 1
問2. 1
問3. 2
問4. 2
問5. 1
問題解説
問1. | 「ウザッタイ」など、反共通語的な若者言葉を井上は「新方言」と呼んでいる。 |
問2. | 標準語には規範的で理想的なニュアンスがある。共通語はかつての東京、山の手言葉という一方言をベースとしたものとする。 |
問3. | 明治時代の言文一致運動や全国一律の国定教科書が標準語の形成・普及に果たした役割は大きいものがあったが、標準語には一方で方言を悪い言葉とする「方言撲滅運動」という統制的な側面がついて回った。昨今は各地で方言復権の動きが見られる。 |
問4. | 言語について、日本は一様であり日本は一つであるという思い込みのようなもので、正しいもの、規範的なものに対する根強い意識の強さでもある。 |
問5. | ニューカマー(new comer)とは、新参者・新来者のこと。古くから住んでいる定住外国人と区別していう。 |