No. 92 学生の「抵抗」
2018/12/17
ある日の授業で、学生の着ている服が目に留まった。グレー地の左胸に「抵抗」と書かれているTシャツだ。欧米の学生なら、ただのファッションかと思えたが、その学生は中国人。けっして大きくはなく、やや控えめにデザインされた「抵抗」の二文字が妙にリアルに感じて、そのときはあえてその件には触れなかった。そう言えば、前に「外国人」と大きく背中に書かれたTシャツを着ている欧米の学生もいた。そのときは思わず「どこで買ったの?」と聞いてみると、学生は笑顔で「成田空港です!」と答えていたが…。
以前は、日本人が何気なく着ているTシャツの英語で、外国人から「おいおい、それはマズイよ」と突っ込まれてしまうものも多かった。意味不明だったり、下品な意味の言葉だったりと理由はいろいろだったが、最近はさすがにそんな話もあまり聞かなくなった。日本を訪れる外国人観光客がこれほど増えると、やはり日本人も外国語には敏感になるのだろうか。
さて先日、テレビの情報番組でタイの最新事情を紹介していた。タイには20年ほど前に2回、バンコクとチェンマイを旅行したきり。興味深く見ていると、番組の中で「いまタイで人気の日本語は何でしょう?」というクイズが。その日本語がデザインされているTシャツの映像が出てきたが、クイズゆえその文字部分は隠されている。私は画面に向かって「どうせ『カワイイ』に決まってるでしょ!」と軽く毒づいた。が、なんと答えはひらがなの「つづく」。日本のアニメが昔から放送されていたタイでは、番組のラストに出るこの言葉が広く知られているのだとか。おお、なるほどと感心しつつ、ありきたりの「カワイイ」しか浮かばない自分の想像力のなさを反省させられた。
そういえば、台北で暮らしていた頃、地元のスーパーの食品には「あやしい日本語」が溢れていた。店のTシャツなどにも意味不明な日本語が躍っていることがあった。当時はそれが面白くて、日本に一時帰国する際のお土産に、あえてそんなTシャツを選んだりもしていた。中でも一番面白がってくれたのが義兄で、「いつどこででも受けて立つ」という決闘状のような縦書きのメッセージが背中にデザインされた一枚を、生地がヨレヨレになっても着てくれていたらしい。そこまで愛用してもらえたら、Tシャツも本望だろう。
時代とともに「ヘンなもの」は淘汰されていく。私の目が「抵抗」に反応したのも、それを寂しく感じているから…なのかもしれない。